瞬く間に時は過ぎ、SPORTバルサスクールキャンプも残すところ、あと2日。1週間は本当にあっという間に過ぎて行きます。この僅かの時間の中で、少年達は、何を感じ、何を学び取っているのでしょうか!?
キャンプへ向かう車中、朝は常にスペイン語大会!「お腹がめちゃ減った。パエリアが食べたい。」「喉が渇いた。水が飲みたい。」「僕は赤いスパイクを持っています。」「スペインへ行こうぜ!」「試合しようぜ!」「僕はフォワードです。」「君、青いボール持ってる!?」「僕と結婚しませんか!?」などなど。こうしたセリフを、短期間ながら、大体皆、言う事が出来るようになっています。その中でも、特に強さを発揮しているのがYUTA。記憶力と応用力を活かして、なかなかの語学能力を見せてくれています。そして、それに負けじと小4のYUTOも食い下がります。一方、流石大阪出身!?KOTAROは、「僕はめちゃ青いスパイクです。」「僕は緑のボールです。」などなど、車内に笑いをもたらしてくれています!
この日の午前中、シュート練習やボールポゼションの練習等が行われ、午後はいつものように、ゲームです。
KOTAROは定位置の左サイドバックに位置します。体格の大きな選手相手にフィジカル面で苦しんできたKOTARO。その部分は、一朝一夕に変わるものではありません。パワーとスピードで負ける分、相手とボールの間に体をしっかり入れてのボールキープや、相手に前を向かせない寄せの厳しさや、寄せの速い相手に対し、繊細なボールコントロールや、足先でない、自分の腰を相手の腰にぶつけるような深いタックルだったり、そうした戦いの舞台で必要な術がまだ未熟なKOTAROは、相手の突破を許してしまう場面もしばしば。また、浮き球を待って受けようとする事が多く、先に相手にジャンプ気味に体を入れられてボールを失うシーンも。ディフェンスでは、時に勇敢に、時に勇気を持って、ボールにチャージしなければなりません。一つのミス、一つの判断ミスが、直ぐに失点に繋がってしまう重要なポジション。今、KOTAROは改めて、その厳しさを痛感している事でしょう。
さて、三男に目を向けて見ましょう。YUTO。彼は、常にフェンス越しに見る限られた条件の中で、常に遠くでプレーしている為、なかなか見辛いのですが、少しずつ、躍動感が増している様子です。オフの動きに課題を持つYUTOは、まだまだボールを受ける事が出来ず、触る回数が少ないのですが、ボールを持った時、果敢に仕掛けようと言う姿勢が見られます。周囲の皆ともようやく打ち解けて来たのか、身振り手振りを交え、コミュニケーションを取る様子も見られます。
そして次男のYUTA。この日、最も成長の跡を見せたのは、彼だったかもしれません。初日、2日目とは打って変わり、自分を主張するようになったYUTA。表情にも生き生きとした自信が感じられ、途端にそれがプレーの表現となって現れます。声としぐさでボールを要求し、果敢に仕掛け、また、チームメイトの好プレーを手を叩いて鼓舞しています。そんな彼に、遂にご褒美が訪れます。右サイドの位置でプレーしたYUTAは、この日2ゴール1アシストの活躍、結果を残す事に成功しました。また、もう一つ、絶好のシュートチャンスがあったのですが、これはGKのファインセーブに遭ってしまいます。本当に悔しそうな表情を見せるYUTA。すっかり、気持ちが入っている様子です。
そんな彼の課題は、ディフェンス面。ポジションにこだわり過ぎているのか、自分のゾーンからあまり動きません。相手と味方が直ぐ近くで球際の攻防を行っている際も、我関せずで傍観している事も。自分もボールに向かって行き、味方をフォローすれば良いところを、眺めているだけのシーンが気になります。また、自分のマッチアップする左サイドバックが斜め前にドリブルで上がって行った時、途中で追うのを止めるなど、“俺が止める!俺がボールを奪ってやる!”と言う意識がやや希薄のように映る事があります。
これまで何百人と言う日本からの少年を長年に渡って受け入れて来て、日本とスペインの差として強く感じる事の一つが、球際の強度です。日本の少年は本当に球際が軽い子が多い。足先だけでボールを取りに行く子が多い。一方、スペインはもちろん、世界中から集まって来た子達は、体ごとぶつけて行くような激しいチャージを当たり前のように仕掛けて来ます。もっと包括的に表現するならば、世界と比べた時の日本の課題は、育成年代の“ディフェンス能力、意識”と言う事になるでしょうか。
日本の育成年代のディフェンス能力、もしくは、ディフェンスへの意識が、とても低いように思います。相手に絶対にドリブルで抜かせない!相手のドリブルを絶対に止める!相手のパスを絶対に通させない!相手に良いポジションを与えない!相手に好き勝手にさせない!相手のボールを奪い取る!そうしたディフェンス能力、意識が日本の若者達は総じて、非常に低い。
日本から来る子達は、皆、「得意なプレーはドリブル!」と語ってくれます。しかし、そのドリブルがスペインでは通用しない事が多い。皆、「あれっ!おかしいな。」となる訳です。それもそのはず、こちらでは、日本に比べ、ディフェンス能力、意識が非常に高く、簡単には、思うようなプレーをさせてもらえないのです。相手を止めようとする気迫と、そして体ごとぶつけてくるようなハードチャージ、球際の強さに、皆、面食らってしまう訳です。
日本で“緩いディフェンス”を前にして通用していた得意なはずのドリブルは、実は、世界では殆ど通用しないのです。
これは、非常にショッキングな話です。
スペインと言えば、バルサやスペイン代表のように、華麗なパスワークがスポットライトを浴びていますが、世界に誇る育成レベルを有するスペインでは、非常にディフェンスの能力、意識が高い訳です。そうしたディフェンスの猛者達を相手に鍛錬に鍛錬を積み、その屈強なディフェンスをはがそうと、突破しようとアタッカー陣が挑む。そうやって、オフェンス力のレベルが上がり、それを止めようとしてまた、ディフェンス力が上がり、そうやって、切磋琢磨して、世界に誇るフットボール文化が出来上がって来ている訳です。
日本の“緩いディフェンス環境”の中でいくらドリブルを練習しても、世界の屈強なディフェンスを前にしたら、それは全く通用しないレベルのドリブルでしかないと言う事です。
ドリブルだけじゃありません。トラップ一つにしてもそう。パススピードにしてもそう。こちらでは、パススピードを速くしないと、ディフェンスに読まれ、パスカットされてしまいます。コントロールをちょっとでもミスすれば、ちょっとでも甘い形で相手にボールを晒してしまえば、たちまち相手ディフェンスに体を入れられ、ボールを奪われてしまいます。日本であれば、ちょっとぐらいコントロールをミスしても、修正する空間と時間が与えられる。パスが緩くても、通ってしまう。それは全て、“緩いディフェンス環境”だからこそであり、世界に出た時に、それは通用しないレベルとなってしまう訳です。
一つのトラップ、パス、体を駆使したボールキープ、ドリブル、ゴール前でのシュート。全てのプレーは、高いディフェンス能力と対峙した時に、そうした緊張感の中で、初めて高精度に磨かれる訳であり、日本から来る少年達は、ことごとく、その面で遅れを取っているなと非常に危機感を覚えます。
この問題を掘り下げて行くと、審判のジャッジング基準にも行きつくようです。日本では、直ぐにピッピピッピ笛を吹かれてしまうようですからね。
いずれにせよ、日本の育成年代のレベルアップ、ひいては日本サッカーが世界のトップクラスに入り込んで行く為には、育成年代での“ディフェンス能力、意識の向上”が、最も重要視するポイントの一つだと強く感じます。
まずは、球際を激しく闘うところから、始めませんか!?